岸田首相の財政感覚

 岸田首相の財政に関する認識はどうなっているのだろうか。政策を立て実行するには裏付けとなる財源を確保しなければならない。しかし、岸田さんは自身の首相任期を意識してか、目先の思い付きのような政策を打ち出すが、その殆どが財源を考えることなく言い出したものだ。

 防衛費の大幅な増額、少子化対策と超大型案件をはじめ、各種経済対策、減税など、言い出したはいいが、財源については見通しが立っていない。その一方で、自身の任期中は消費税増税はしない、と明言してしまった。その時点では現在のような巨額の財源を必要とする政策は頭の中になかったのだろうか。或いは、当時から現在に至るまで、いざとなったら国債の発行で何とかなる、と甘い考えでいるのだろうか。

 現在の経済状況から、国民の更なる負担が生じないようにすると明言したが、少子化対策費の一部は社会保険料に上乗せする形で新規徴収の予定だとか。既に防衛費の一部は所得増税で賄うことにしている。また、岸田さんが拘った所得減税や給付金はは実質的には国債発行で賄うことになる。

 一体何を考えて政権運営をしようとしているのだろうか。直近ではガソリン補助金の代わりにトリガー条項凍結解除を検討するよう与党に指示したというが、その結果の国税地方税合わせて1.5兆円と言われる穴埋めの財源をどうするかは考えていないのだろう。今審議中の補正予算13.2兆円にしても、その財源の見た目で67%が国債発行だが、残りも実質国債である。政府が何かをしようとすれば当然のことながら財源の裏付けが必要である。その自覚があるのなら、財源の話抜きで簡単にあれやるこれやると言って欲しくない。

 財源抜きの政策論など意味がないのである。岸田さんは国政を預かる身として、自身の任期を如何に伸ばすかを気にするより、もっと責任ある政策運営をして欲しい。それでなくとも衰退一途のこの国の、後退を後押しするような現状から如何に脱却するか、岸田さんにはその覚悟を求めたいのだが。

 現在、政治と金の話題がいろいろ取りざたされている。穴だらけの政治資金規正法での違反の疑いであるが、そんな政治資金の中での政治家生活で、金銭感覚がマヒしてしまっているのではないか。国債は国の借金である。後世に付けを回していると考えたら、気軽に国債で何とかなる、なんて考えないだろう。もう少し国の将来を考えた政治をして欲しいものだ。、

岸田内閣の支持率

 最近の内閣支持率で、岸田内閣の支持率はずっと下落傾向が続き、最近の調査ではほとんどの調査で20%台となっている。岸田首相はこの支持率の低下をどう受け止めているのだろう。表向きは真摯に受け止めるとか言っているが、現実はそんなに甘いもんじゃない。

 首相になった当初を除き岸田さんは、国民にとって如何に日本という国を住みやすい国にするかという事より、如何に長く首相の座に座っていられるかという視点でずっと政権運営をしてきたように思われる。それが衆議院議員の任期が半分を過ぎたこの秋以降顕著に表れた。

 国民の支持を得られそうな政策を打ち出して支持率を上げ、衆議院を解散し、その実績をもって来秋の総裁選で再選を果たし、長期政権を目指そうとする岸田さんの青写真が国民に真意を見透かされてしまった。それで国民の支持が離反し、現在の支持率の低下に反映されいる、という事ではないか。

 最大の支持率回復の目論見が外れたのは減税への拘りだろう。増税めがねと呼ばれるのを嫌い、減税を打ち出せば国民の支持が得られるのではないかと減税に拘ったが、さすがに後に増税が待っている減税などには国民は見向きもせず、かえってその下心に拒否反応を見せたのが、最近の調査でのこれまでの最低の支持率に表れたのだろう。

 岸田さんは長く首相の座に座っていたいがために、場当たり的な目先の政策は並べるが、その先3年後、5年後この国をどうしたいのかが見えない。それどころか最近は、国民の支持がなかなか得られなければ、国民よりも、何とかして、いわゆる保守派からの支持を確保しようと必死の様相。憲法改正を進めようとか、軍備の増強や、周辺国との軍事同盟の強化とか、軍事国家への道に進もうという感じになってきた。来秋の総裁選に勝つためには手段を択ばず、といった感じ。

 岸田さんにとって如何に首相の座が大事でも、そこに拘って、長期的な視点に欠けた場当たり的な政策ばかりでは、国民にとっては百害あって一利なしである。将来像が描けなければ、今なんでこの政策なのか、という事の合理性があるのかどうかわからない。政策がブレるというより、政策の妥当性が理に合わない今のやり方では、支持率が下がるのは仕方がないのではないか。それだけではなく、このままでは日本の将来は暗澹たるものになる。

矛盾ばかりの所得税減税

 増税めがねと呼ばれるのを嫌った岸田首相のこだわりの減税。過去2年間で税収が増えた分を国民に還元すると言っていた岸田さん。それが、物価高の国民生活を支える上で重要だと考え、わかりやすく所得税と住民税という形でお返しする、と具体化した。

 先ず、何故給付ではなく減税を選んだのか。当然のことながら減税では、税額がそれ以上なければ意味はない。そこで給付を組み合わせるという。課税状況により減税か給付に分かれる。課税はされるが控除額以下の場合は給付になるという。しかも、減税の場合は扶養控除対象者も減税対象者になるが、給付の場合は世帯単位という。

 これが分かり易いのか。家族構成によっては減税対象者と給付対象者の場合で、還元額に大きな差が生じる。公平性の点からも問題だろう。更に、国民は現時点で物価高に困っているのに、給付なら今年度中に支給できるというのに、減税では来年の6月以降になるという。何のための減税へのこだわりなのか。

 次に、所得減税と胸を張るが、その後には防衛費や少子化対策費という増税が待っている。増税が控えているのに減税というのでは何をやってる、だろう。だが岸田さんは国会で、防衛増税は景気を踏まえて判断する。来年度は実施せず見送りとするとし、だから、所得減税との同時実施にはならないという。だが、同一年度かどうかという話ではないし、増税が予定されているのに減税とは、おかしいだろうという事だ。

 更に、防衛増税は景気判断によるというのなら、防衛費5年間で43兆円増の計画も、景気状況によって見直す、という事なのか。或いは増税を見送った場合は国債発行で賄う、という事なのか。その辺の話は一切出ないのは何故か。更に、少子化対策については触れもしなかったが。少子化対策の財源については考えてもいないのか。当初から本気でなかったのが明らかになってしまった感がある。

 次に、少々税収が上振れたからと言って国民に還元していては、従来からの看板である政健全化路線に逆行するとの不安に対しては、デフレの脱却こそ国の財政再建にとって最も重要なことである、と岸田さんは反論しています。だが、現状はすでにデフレ状態ではない。国民はインフレで困っているのだ。デフレから脱却したと言って困るのは政府だけだろう。莫大な国債残高を抱えながらゼロ金利国債を発行し、都合よく国家財政を運用してきた。金利が発生すれば一気に財政悪化につながる。それを恐れてデフレ脱却宣言ができないのだろう。最早反論の余地など無いのに。

 どの側面からみても今回岸田さんが打ち出した所得減税は各種政策との整合性が取れず、しかも日本経済にとって有用な政策とは思えない。減税にこだわり、給付のタイミングを遅らせ、不公平観たっぷりの今回の所得減税策で、岸田さんの支持率上昇に繋がると考えるのは、少々国民を馬鹿にしているのではないか。

迷走する岸田首相

 岸田首相の頭の中はどうなっているのだろう。今は如何にして支持率をアップさせるか、あわよくばその先に衆議院解散、更に来秋の総裁選再選へ、それしかないようだ。以前の記者会見で、税収が見込みより増えたから国民に還元する、と言っていたが、20日からの臨時国会開会を前に、19日に所得減税の検討を指示したという。

 所得減税について物価高対策の一環としているが、どこまで本気で、どの程度考えてのことなのか。その財源はどうするのか、まさか国債の発行とか。しかも、物価高対策というものの、今言われているのは、実施できるのは来年の6月ごろで、1年限りという。他の政策と同様、またも対症療法的に小手先の支持率回復策でなく、実効性のある政策を考えたらどうなのだろう。例えば、本気で税収増を還元する気なら、物価上昇に伴って増加する消費税を還元するように、消費税率を引き下げる、というような政策も考えられるだろう。

 支持率に影響するからか、減税の話を持ち出して関心をそちらに向け、増税については触れないというのは、国民を馬鹿にした話だろう。防衛費の大幅増額の財源はどうするのか。昨年末から口先だけで言っている異次元の少子化対策について、その中身はどうなっているの。その財源はどうするのか。余裕のない今の財政状況では、歳出のうち何かを大幅にカットする。その場合は何をカットするかを具体的に明示する。それができないなら増税するか、あるいは全て国債発行で賄うか。選択肢は多くない。

 国民に対して財源を示さずに政策だけ示して選挙をし、後から足りないから増税だとか国債増発だとか言うのでは、まともな政治とは言えないだろう。新しい政策には新しい財源が必要になる。当然のことなのだから、後で増税が見えている現状で、減税だけの議論をするのはおかしいだろうし、全く正常な政治とは思えない。

 鈴木財務相は記者会見で、物価高対策として所得税などの減税を検討することと、防衛力強化のために所得税を含む増税を議論することは、増減税の目的が異なり別の話だとして、矛盾しないとの見解を示した。情けない。これが岸田内閣の財務相の言葉か。国の財布はひとつ。岸田内閣では政策ごとに独立した予算で政策実行しているのだろうか。今般の臨時国会で減税が議論されそうだという。その時に合わせて防衛費や少子化対策に向けた増税議論も併せて行えばよいと思うのだが。予算委員会で減税と増税の議論が並行して行われれば、如何に滑稽な図になるかわかるだろう。

 岸田さんの政策は、いつもどこかの誰かに丸投げし、短期間の期日で結論を出すように、だけ指示する。その結果出てくるのは、その時々の対症療法的なその場限りの弥縫策ばかりで、本質的な解決策に取り組もうという姿勢はない。今回も経済対策の減税と他の増税との合わせ技のようになってしまった。

方針無き政策

 岸田首相が、税収増加分を国民に適切に還元する、と語っている。22年度の税収が6兆円ほど上振れたことによるものと思われる。国民への還元とは何を意味するのか。相変わらず具体策はなく、今のところは観念論だけである。

 岸田さんは何をしたいのだろうか。これまで防衛費の大幅増加の財源として増税を打ち出し、何をするのか内容は分からない少子化対策には、財源は社会保険料に上乗せ、とか言われている。いずれの予算も巨額が見込まれるが、その財源についてはきちんと語っていない。一方で政策の財源を明らかにせず、一方で減税を匂わせる。来秋の総裁選を控え、早い時期に衆議院を解散し、選挙の勝利を実績として総裁選を乗り切ろう、という事のようだ。

 まだ衆議院銀の任期は半分の2年にしかならない。そんな時期に解散を考えるとは。首相の地位守ることしか年頭にない岸田さんにとって、来秋の総裁選に勝つためなら解散総選挙でも何でもありだし、言っていることの一貫性など気にしない。低迷している内閣支持率を上げるには、兎に角バラマキが手っ取り早い、という事なのだろう。

 岸田さんはこれまで、その時々に思いついたような、スローガン的な耳障りの良いことは言うが、その詳細については自ら語ることはない。いつもどこかの誰かに丸投げし、短期間の期日で結論を出すように、だけ指示する。その結果出てくるのは、その時々の対症療法的なその場限りの弥縫策ばかりで、本質的な解決策に取り組もうという姿勢はない。

 今盛んに振りまいている国民へ還元するという話も、一方で財源の当てのない政策を並べ、後から財源をどうするか検討しているが、当然の如く結論は出ない。そんな中でも平然と税収が上振れたからその分は国民に還元するとか、何を言っているのか。税収が上振れるという事と、予算が余る、つまり剰余金が出るという事とは違う。

 税収の上振れで剰余金が出れば、財政法により半分は国債の償還に充てなければならない。剰余金は出ないのであれば、還元する分は赤字決算になる。赤字なら国債を発行してでも還元しようとしているのか。消費税増税はしないとは明言したが、その他税での増税をしないとは言っていない。この辺の説明も全くない。

 何も考えずに有権者の気を引くバラマキの言いたいことを言って、選挙が終わってしまえば知らん顔で済まそうというのだろうか。予算も赤字国債の発行を前提に組まれているので、予算で剰余金が出てもそれは赤字国債から出たもので、何の考えもなしに、即国民へ還元、で良いのだろうか。一方で予算の中から予備費とか基金とかという名目で、政府の自由裁量で使える巨額の枠を持っている。税収に限らず、国への収入は政府与党の自前の資金と勘違いしているのではないだろうか。

岸田首相の人権感覚は

 自民党内の人事ではあるが驚いた。杉田水脈衆院議員が環境部会長代理に就いたという。自民党内の環境部会のナンバー2である。杉田さんは、いわゆる保守層の思考回路での言動を臆面もなく内外に発信してきた。当然のことながら国会内だけでなく一般社会でも大いなる顰蹙を買ってきた。

 昨年末には、一連の差別的言動で総務政務官を更迭されていた。先日、アイヌ民族らへの差別投稿をめぐって、札幌法務局から人権侵犯を認定されたばかり。しかも、人権侵害認定に対して何の説明もせず、コメントしていない。つまり無視である。裁判所から人権侵害を認定されるような人物は国会議員として不適格だと思うが。

 あろうことか、そのような人物を党の要職につけるとは。党総裁である岸田首相の人権感覚もその程度のものだという事だろう。岸田さんは、国連演説で人間の尊厳が尊重される国際社会を、と訴えている。その一方で、自民党総裁選で公約に掲げた国際人権問題担当の首相補佐官が空席となっている。岸田さんの肝いりポストだったという。

 このアンバランスさ。一貫性の無さ。自身の保身の為なら、その場限りの自分に都合の良い話をしてでも支持を取り付け、できれば拡大したい、ということだろう。そこには何の信念も理念もなく、あるのは如何に総理総裁を長く続けるか、その一念だろう。

 首相になりたい理由はと問われ、日本で一番権限が大きい権力者だからで、何をしたいかは話さなかった。権限は欲しいが、何かをしたいわけではない。そこに岸田さんの本質があるのだろう。

 その一方で、自民党前女性局長だった松川るい参院議員が副幹事長に就任した。自民党女性局によるフランス旅行が、研修という名の観光旅行ではないかと批判され、辞任していた。そこをまた副幹事長に登用するとは。松川さんは観光ではなく研修だったと言っているが、未だに研修報告書も出ていない。

 辞任の理由としても、自分のSNSの投稿内容が悪かった所為で、真面目な研修だったのに誤解を招いてしまって申し訳なかった、というもので、説明にもなっていない。誤解されたから辞めますと。自分たちは悪くないのに、という事なのだろう。国会議員としての自覚というか、やって良い事と悪い事の区別ができていないようだ。誤解だというなら、そうでないことを事実をもって反論すべきだろう。

 今回の件は、たまたま見つかるようなことをしてしまった、運が悪かったというのが自民党内の一般的見方なのだろう。岸田さんにとっても、何の抵抗もなく素通りできる事柄なのだろう。ただ、杉田さん、松川さん共に安倍派所属であるという事が、岸田さんにとって来秋の総裁選に向けて、党の要職に再登場させた大きな理由なのだろ。

岸田首相の経済対策

  岸田さんが新たな経済対策の5本柱を示し、具体策を検討するよう自民党内に指示したという。今の時期に何のための経済対策なのか。策定した経済対策の実施に必要な予算は、臨時国会補正予算を組むという。だが、その五本柱という対策の内容を見ると、この時期の物価高対策は分かるとして、その他の4本はなぜ補正予算でやるのか意味不明。持続的賃上げとか、国内投資の促進だとか、人口減少対策だとか、国土強靭化だとか、小手先の施策で何とかなるような代物ではないことは誰が見ても明らか。

  ただただ国会での議論をしたくないだけなのであろう。自民党内で規模ありきの巨額の補正予算を作るための経済対策を作り、短期の臨時国会を開きそこで補正予算を通す。議論はしたくない、支持率アップを狙ってバラマキ政策はしたい。あわよくば衆院解散総選挙も、と思っているのだろう。

  2020年度に計73兆円、21年度に36兆円、22年度に31兆円と、新型コロナの影響ではあろうが、巨額の補正予算を組むことが常態化している。そして、その中で大きな予備費を確保し、国会を通さず、巨額予算を好きなように使えることに味を占めたのだろう。今回の補正予算も、項目は並べるがその実施のための具体策はないだろうから、そこに巨額の予備費を計上し、巨額の自由裁量枠を確保する腹積もりだろう。

補正予算の編成と言っても、財源があるわけではなく、国債に頼らざるを得ない現実である。新型コロナ対策の予算は必要なくなったのだから、新型コロナ前の喫緊の課題に絞った補正予算に戻すべきだろう。

  既に会計検査院の20,21年度分の調べで、巨額の予備費が使われず繰り越されていた。会計検査院は、予備費の執行状況を公表するよう求めるとともに、予備費決定時の想定や繰り越しに至った経緯を丁寧に説明すべき、と指摘している。しかし岸田内閣は会計検査院の指摘は無視を決め込んでいる。強制力はないから聞置くだけ、という事なのだろうか。

  10月中にまとめるとみられる経済対策は、物価対策は補助金を中心としたバラ播きに、その他は具体策がないので巨額の予備費を中心とした内容不明なものになりそう。大々的に打ち上げた異次元の少子化対策は、いつの間にかどこかに行ってしまった。スローガンは立派だが、中身が伴わない耳ざわり良い言葉だけでは、第2第3の少子化対策となることが見えるようだ。

  掲げた問題は重要な政策ではあるが、1か月や2カ月で対策ができるような話ではないだろう。現在進行中の来年度の当初予算編成に組み入れ、国会で時間をかけて十分に議論をする必要がある問題だと思うが。こうした重要な政策を、自分の支持率アップに利用するために安易に持ち出してくること自体、岸田さんの政治感覚がまともではない証左ではないだろうか。

  これまでも国葬から始まって、安保3文書の改定、敵基地攻撃能力の保持、防衛費の大幅増額、原発再稼働や新増設の推進、健康保険証を廃止とマイナカードの実質義務化や使用の拡大と、日本のこれまでの歩みから大きく方向転換するような重要問題についても、ことの重要性の認識が出来ないのか、閣議決定だけで、国会での議論もなく軽い感じで決めてしまう感覚。とてもではないが、その政治感覚は一国のリーダーのものとは思えない。この国は一体どうなるのだろう。