岸田首相は何を考えている

 岸田首相の衆院本会議での施政方針演説を読んでみた。その読後感を一言でいえば、岸田さんは本当は何をしたいのだろうと、考えてしまった。

 新聞などでいろいろ書かれているがその中に、聞く力が影を潜めてしまった、というのが多くあった。しかし、聞く力は十分発揮されていたように思えた。施政方針だから、演説内容は強気な内容となるのは分かるが、そこに聞く力を発揮したのだろう。政策はあちこち多岐にわたるが、その底流に流れる一本筋の通ったこの国の向かう方向性が見えてこない。いろいろな取り巻きから、いろいろな方面の、如何にもこれをやれば良いだろうなという、耳障りの良い、しかし中身の薄い言葉を聞かされ、そこに聞く力を注いだのだろう。それらを書き並べてみて、出来上がりも、なんとなく岸田首相はなかなかやるじゃん、と思われるようなものになった、と岸田さんには思えたのだろう。

 だが、言葉の羅列なだけに、個別の細部の話ではなく、大枠の話としてこの国をどういう国にしたいのかそれが見えない。そこに理念があるのだろうか、信念もないように見える。ましてや自身の哲学が感じられない。さらに言えば、あるのは権力の座に長く留まりたいという願望だけか。

 それぞれの政策の前提となる現状認識と議論の積み重ねが無いから、出てきたものが政策もどきのスローガンのような薄っぺらなものになってしまったのだろう。なんで国会で正々堂々と真正面からの議論をしようとしないのだろう。結論が先にあって、結論に対する議論の場としての有識者会議とか有識者懇談会とかで、いくら議論らしきものをしてもそれは単なる意見交換にしか過ぎない。結論が決まっていて、それに対する反対論もなく、如何に結論が正しいかの理論付けを考えてもそれは何の意味も持たない。

 賛否を含めていろいろな方面からの意見や懸念を出し合い、今回の施政方針は、真の意味での議論を戦わせて作り上げられたものとはとても思えない。面倒な手順は踏まず、簡便法で作り上げた感じがする。更に、国会に出した上で、逃げることなく、誤魔化すことなく、真の意味で真摯に議論をしようと、その覚悟もないような気がする。岸田さんにとっては、面倒臭いことはせず、自分の出した結論ありきで、これでいく、なのだろう。

 このままでは、日本はどこへ行ってしまうのか大いに不安である。これからの国会での論戦で野党が相当頑張らないと、本当に新しい戦前が始まってしまう。