政策議論はどこへ行ったの?

 これも臨時国会が閉幕した直後に、原発再稼働の推進や新増設も進めていく、と打ち出した。なぜ国会が開かれている中での提案とならないのか。昨年7月の参議院議員選挙前に、これまで可能な限り依存度を低減するとしていた原発を、突然選挙公約で安全が確認された原子力の最大限の活用を図ると盛り込んだ。しかし、選挙中も選挙後から国会閉幕までの間にも、原発の再稼働や新増設について、政府から国民や国会に対して何ら説明は為されていない。

 2月に岸田政権は、次世代型原発への建て替えや運転期間の延長を含む原発政策を転換する内容の基本方針を閣議決定した。しかし、運転股間の延長は、閣議決定した時点では原子力規制委員会では運転期間の延長を認めてはいなかった。つまり、規制委員会が認めていないものを、政策として進めることを閣議決定したのである。

 東日本大震災での福島の原発事故の教訓から、規制委員会は政府から独立し、原子力の安全規制に関する業務を一元的に担う機関として設置されている。その規制委員会が認めていないものを閣議決定するとは、規制委員会を何だと思っているのか。一方、規制委員会も閣議決定を受けて臨時の委員会を開き運転期間の延長を承認した。しかし、承認は重要案件なのに多数決という異例の事態での決定であった。

 先の原発事故の教訓は全く無視されている。規制委員会は政府からの独立性を自ら放棄したような感じだ。なぜ規制委員会は全員一致までの話し合いをしないのだろうか。運転期間は政策判断で考えることで、規制委員会として意見を申し述べる立場、と規制委委員長が記者会見で述べたというが、これでは規制委の役割の存在意義を自ら否定したものだろう。

 岸田政権には原子力政策も政権に決定権があるという意識があるのだろう。原子力規制庁原発の運転期間延長を巡る制度変更について、規制委員会から具体的な指示を受ける前に経産省と検討を重ねていた。この省庁間の検討内容は明らかにできないという。これでは、原発事故以前の体制と全く同じではないか。事故を反省する気はないということか。

 岸田首相はこの原子力政策に限らず、何かというと「丁寧な説明が必要」というが、岸田さんから一度たりとも丁寧な説明を聞いたことはない。時々それらしいのは、同じ話を繰り返すことだけ。