矛盾ばかりの所得税減税

 増税めがねと呼ばれるのを嫌った岸田首相のこだわりの減税。過去2年間で税収が増えた分を国民に還元すると言っていた岸田さん。それが、物価高の国民生活を支える上で重要だと考え、わかりやすく所得税と住民税という形でお返しする、と具体化した。

 先ず、何故給付ではなく減税を選んだのか。当然のことながら減税では、税額がそれ以上なければ意味はない。そこで給付を組み合わせるという。課税状況により減税か給付に分かれる。課税はされるが控除額以下の場合は給付になるという。しかも、減税の場合は扶養控除対象者も減税対象者になるが、給付の場合は世帯単位という。

 これが分かり易いのか。家族構成によっては減税対象者と給付対象者の場合で、還元額に大きな差が生じる。公平性の点からも問題だろう。更に、国民は現時点で物価高に困っているのに、給付なら今年度中に支給できるというのに、減税では来年の6月以降になるという。何のための減税へのこだわりなのか。

 次に、所得減税と胸を張るが、その後には防衛費や少子化対策費という増税が待っている。増税が控えているのに減税というのでは何をやってる、だろう。だが岸田さんは国会で、防衛増税は景気を踏まえて判断する。来年度は実施せず見送りとするとし、だから、所得減税との同時実施にはならないという。だが、同一年度かどうかという話ではないし、増税が予定されているのに減税とは、おかしいだろうという事だ。

 更に、防衛増税は景気判断によるというのなら、防衛費5年間で43兆円増の計画も、景気状況によって見直す、という事なのか。或いは増税を見送った場合は国債発行で賄う、という事なのか。その辺の話は一切出ないのは何故か。更に、少子化対策については触れもしなかったが。少子化対策の財源については考えてもいないのか。当初から本気でなかったのが明らかになってしまった感がある。

 次に、少々税収が上振れたからと言って国民に還元していては、従来からの看板である政健全化路線に逆行するとの不安に対しては、デフレの脱却こそ国の財政再建にとって最も重要なことである、と岸田さんは反論しています。だが、現状はすでにデフレ状態ではない。国民はインフレで困っているのだ。デフレから脱却したと言って困るのは政府だけだろう。莫大な国債残高を抱えながらゼロ金利国債を発行し、都合よく国家財政を運用してきた。金利が発生すれば一気に財政悪化につながる。それを恐れてデフレ脱却宣言ができないのだろう。最早反論の余地など無いのに。

 どの側面からみても今回岸田さんが打ち出した所得減税は各種政策との整合性が取れず、しかも日本経済にとって有用な政策とは思えない。減税にこだわり、給付のタイミングを遅らせ、不公平観たっぷりの今回の所得減税策で、岸田さんの支持率上昇に繋がると考えるのは、少々国民を馬鹿にしているのではないか。