少子化対策の本気度と覚悟

 岸田首相が高らかに打ち上げた異次元の少子化対策。岸田さんが早い段階で増税はしないと明言してしまい、少子化対策の財源の確保の手段のひとつを封じてしまった。しかし、3兆5千億円ともいわれる予算の財源をどうしようとするのか。岸田さんの少子化対策の本気度が問われている。

 どうやら、異次元の少子化対策と銘打っては見たものの、掲げる看板は派手で大きい方がいい、という感じで打ち出しただけのような感じになってきた。防衛費との比較ではっきりとわかる。防衛費は、岸田さんが先頭に立って、何に使うのか良く分からないままに、総額で2倍相当(GDP比1%から2%へ)、財源は国有財産売却や国債ロンダリングまがいの予算剰余金と税金、という具合に財源と予算のセットで早々に決めた。

 それに対して少子化対策は、こども未来戦略会議なるものが方針案を公表した。岸田さんが総額は3兆5千億円にすると宣言するも、財源確保のための増税は行わない、と縛りをかけている。方針では、その財源については、社会保険料に上乗せする形で「支援金制度」を作り、高齢者や企業も負担する医療保険と一緒に集める。また、社会保障の歳出削減を徹底し、税金や社会保険負担を減らして活用する。更に、当面不足する分は「子とも特例国債」で対応する、などが書かれている。

 財源は行財政改革などによって賄おうにも、現行予算内の余剰は全て防衛費に回されることになっているので、子育て政策に回る分は無い。つまり、子育て予算は国民から集めるか、現行給付の減額か、国債発行に頼るかしかない。だから、税金として集めないと明言しても、どういう名前を付けようと、名前を変えた税金を集めるしかない。更に、社会保障の給付額の切り下げと国債の発行とを組み合わせて辻褄を合わせるつもりだろう。国民への丁寧な説明はせず、如何に誤魔化すかに腐心しているようだ。

 いつか分からないが、来るべき選挙向けに、増税はせずに盛りだくさんのばらまきメニューを国民に提示し、選挙を有利に戦おうということだろう。しかし、そのメニューの価格は全て時価と書いてあるという感じ。岸田さんはどこへ行ってもメニューなど見ずに食べたいものを食べているのだろが、一般国民はメニューが全て時価ではとてもそこでは食べられない。

 その一方で、盛りだくさんのメニューは並べたが、本当に少子化に役立つのだろうか。書かれている内容はその殆どが子育て関連。選挙向けのバラマキには良いのだろう。内容は大切なことが多く含まれているが、それは少子化対策ではなく、一般の社会政策として実施されるべきものであり、通常予算内で賄われるものだろう。

 厚労省少子化社会対策白書にあるように、夫婦の子ども出生数は、2000年頃までの2.2前後から減っているとはいえ2015年でも1.9台と、発表されている出生率とは大きく異なる。つまり、少子化の原因の主たるものは婚姻率が下がってきているではないか。こども未来戦略会議なるものはこの点をどう考えているのだろうか。少子化対策の本丸は、何故婚姻率が下がってきたのか、ということではないか。選挙や人気取りは度外視し、忖度なして、この点についての若年層の意識調査を実施し、丁寧な分析と、その結果に基づく丁寧な議論を行えば、そこに対する対策が浮かび上がってくるのではないか。

 本気で少子化対策を考えるというなら、国民受けなど考えず、損得を度外視し、即効性を求めるより、実効性のある方法を、手間暇かけてでも実行すべきだろう。岸田さんにそれだけの覚悟があるのだろうか。