総理大臣の椅子

 岸田首相は、誰かが問題を起こすと、当事者に対して、丁寧に説明を、丁寧な説明が大事と言ってきた。岸田さんが到底本気で言っているとは思えないし、当人からもそんな説明を聞いたことは無い。これは岸田さん本人を除いての話だが、岸田さん自身についてもいろいろな場面で丁寧な説明が必要と言いながら、聞いたことがない。丁寧な説明とは、岸田さんにとって単なる便利な逃げ口上に過ぎない。

 さて、真っ向勝負ができない岸田さんが、異次元の少子化対策と銘打っては見たものの、何をすれば良いのかも分からず、財源はどうするかの当てもなく、話だけはどんどん大きくしてしまった。そこで、自らを議長にこども未来戦略会議(以下戦略会議)というものを立ち上げ、そこへ丸投げしてしまった。

 戦略会議では、異次元とは関係なく、思いつくままに少子化対策になりそうなものを羅列し、検証もせずに方針としてしまった。そんな感じで出てきたような、何の脈絡もない項目がメニューが並んだ。従って、当然のことながら費用対効果は無視しているので、その財源をどうするのかという観点はすっぽ抜けている。

 岸田さんが、消費税を含めた新たな税負担は考えていない、と増税を封印をしてしまった。しかし、国民に負担を求めずに財源をどうやって生み出すのか。国債発行以外の打ち出の小槌がある筈もない。税金という言葉を使わずに、名前を変えて国民に負担を負わせることが戦略会議の方針にも記されている。つまり、医療保険料に上乗せして支援金を集める。社会保障の給付を減らしてその分を活用する。当面不足する分は国債の発行で賄う。その他、新たな高校生への児童手当の給付に対し、所得税からの高校生の扶養控除の廃止で対応する。

 なぜこの対策メニューが必要なのか、を正面切って国民に説明し、実施ために税負担をお願いしたい、と訴えないのか。真剣に考え議論して出した対策ではないので、国民に訴えても賛同が得られないと思うから、こそこそと何とか誤魔化そうとしているのだろうか。そもそも、なぜ加速化プランとか言って当初3年間を重点機関にするのか。少子化対策はもっと長期的視野で取り組まなければならない筈だ。その全体像も見せず、当面の応急措置だけ見せられても、単なる選挙向けだろうといううさん臭さが垣間見えてしまうだけ。

 岸田さんには何事にも真正面から向き合って欲しい。少子化対策に限らず、何事も誤魔化しで何とかしようとする態度は、総理大臣の椅子に執着する醜い一面を浮き上がらせているように見える。総理大臣は確かに最大の権力を持っているが、憧れるのはその椅子に座るまで。その椅子に座ったら国民の為にその権限をフルに使って欲しいものだ。