変われない日本の電源政策

 福島原発事故以来、歴代首相は原発回帰には慎重であり、岸田首相も昨年夏の参議院議員選挙まで、原発の建て替えや新増設を想定していないとしてきた。ところが安全保障政策などと同様、国の基本的な政策である筈の原子力政策も昨年秋の臨時国会終了を待って、いとも簡単に変更し、再稼働、運転期間の延長、新増設を認めることにするという。

 このような重要政策を表明するのに、なぜ臨時国会が終了するまで待ってからなのか。国会で審議をしないで済むように避けたのか。岸田さんはここでも政府・与党で1年以上丁寧な議論を重ねてきた、だから進め方に問題はないという。

 ここでもまた、国民や国会での説明は眼中にないようだ。だが、結論ありきで政府与党内という賛成派の中で方針変更議論しても、本質的な議論からはほど遠いような気がするが。外部への原子力政策の変更の説明責任をどう考えているのだろうか。

 苦し紛れか、政策転換の理由として挙げたのは、ウクライナ侵略によって、世界的なエネルギー危機といわれる中、エネルギー安定供給と脱炭素の両立を図るために原子力発電を推進させる必要がある、というが、ウクライナ危機に便乗し、原発推進の好機とばかりに持ち出してきたのだろう。だが、まだ計画もないであろう原発の建て替えや新増設したところで、実際に電力を供給できるのはいつになるのか。ウクライナ危機がそんなに長期にわたって続くと考えているのか。時間経過の感覚がないのか。

 今の時点での原発回帰に特段の理由はなく、あるのは何とか原発推進したいということなのだろう。だが、環境省が集計し発表している再生可能エネルギーのポテンシャル調査によれば、地理的、法的な制約などを加味して絞り込んだ「導入可能ポテンシャル」は、風力発電太陽光発電の合計に限っても日本の総電力需要量の約7倍ある。更に、導入可能ポテンシャルの内、買取価格など条件さえ整えば、そのまま導入できる量である「導入可能量」に絞っても2.5倍ある。

 現時点でも原発から出た放射性廃棄物の処分に苦慮し、何も決められないまま強引に何処かに押し付けようと考えているのに、さらに放射性廃棄物を増やしてどうするのだろうか。そのような心配のない再生可能エネルギーに軸足を移す準備を考えた方が賢明ではないか。なぜ再生可能エネルギーへの取り組みに消極的なのかわからない。

 岸田さんが挙げた政策転換の理由が、真の理由ならば、その時間軸からも再生可能エネルギーの研究に力を入れ、軸足を移していく余裕はあると思うのだが。それとも、やはり再生エネルギー関連には原発ほどの美味しい利権がないからなのだろうか。

 次世代に放射性廃棄物という負の遺産を残したくないと思う。