岸田首相の思考回路

 岸田さんは、首相になった時から何をしたいのか分からない人だった。自民党総裁選前には令和版所得倍増とか言っていたが、首相になった途端に資産所得倍増に変わってしまった。更に、新しい資本主義というのも加わった。その後暫く静かだったが、安倍元首相が無くなった時には突然国葬をやると決めたが、ある日国葬ではなく国葬儀だと言い替えた。23年年初には、防衛費をGDP比1%から2%に増額する。更に少子化の進行に対し、異次元の少子化対策をする。と大風呂敷を広げた。

 多分岸田さんは世襲議員の悪い面を体現しているのでは無いかと思う。何か実現したい目標があって政治家になったわけではなく、親の地盤、看板、鞄を引き継ぐ形で政治家になってしまった。更にその系譜から派閥の領袖になってしまったが、その派閥宏池会は池田隼人元首相が立ち上げた党内きってのリベラル派。だが、宏池会の理念より自分の首相の座を守ることに執着している。

 岸田さんがこども政策対話で震災復興の地福島県を訪れた際、子供から首相になりたかった理由を問われ、日本の社会で一番権限が大きいから首相を目指した、と答えたという。つまり、何かをしたかったからではなく、大きな権限を持ちたかっただけで、その権限を何に使うかは考えていなかったようだ。相手が子どもと思ってつい本音が出てしまったのだろう。

 権限を行使する為には何かをしなければ、という焦りが、中身のない上滑りする発言の数々なのだろう。池田元首相に倣って所得倍増と言っては見たが、流石にこれはできそうもない。そこでちょっと言葉を足して資産所得倍増にしてみたが、これでは富裕層向けのような感じなので、更に新しい資本主義を加えてきた。ところが、新しい資本主義って何なんだと、その中身を議論すべく集められた有識者も首をかしげる始末。未だに言葉だけで何のことなのかわからない。

 国葬も同様。保守派に配慮したのか、安倍さんが亡くなって早々に、何の議論もなく安倍さんを国葬にすると決めてしまった。ところが国葬に反対の意見が噴出。慌てて国葬とは違う、国葬儀だ、ということにした。

 更に防衛費と少子化対策だ。いずれも予算規模を従来から倍増させるとした。だが、ここでも悲しいかな、中身がスカスカ。防衛費にしても倍増した予算は何に使うのか。足りない費目の積み上げで出したわけではなく、総額倍増を先に決めて後から使い道を決めるとは、何も考えていないのだろう。そのくせ、倍増する予算の財源は、国有資産の売却とか、歳出改革とか思いつくままに列挙してみせた。

 その煽りを食ったのが少子化対策予算である。異次元とか言って、当初これまでの2倍に相当する額とか言っていたが、何に対して2倍なのかはとうとう答えられず仕舞い。異次元の部分だけが取り残されたが、何が異次元なのか今も分からない。今見えているのは、児童手当を中心としたバラマキである。しかし、その財源はというと、使えそうなものは全て防衛予算に使うと決めてしまっているので、あとは国民負担に頼るだけ。だが、ここでも岸田さんはまたも、国民に新たな税負担は負わせない、と繰り返し言っている。

 岸田さんは何か言っても、積み上げた思考からではないので、いつも中身は空っぽ。ここでも、新た税負担という形ではなく、社会保険料の労使からの追加負担で支援金制度を作る。社会保障の歳出改革により支出を抑えその分を充てる、など言われている。だが、支援金の原資は労使とはいえ、新たな国民負担であり、社会保障の減額は、その分国民負担で賄うこととなる。

 新たな税負担でなく、他の名目での負担増なら構わないと思っているのだろうか。もし、本気で国民に新たな負担を生じさせないで財源が確保できると考えるなら、その考え方で防衛予算も賄えばよい。勿論国債に頼らず。国債は将来的に国民負担に返ってくる話だ。そんな打ち出の小槌があるなら、何でもできそうだが、ありえない話だ。