手段と目的のはき違え

 マイナンバーカード(以下カード)の分かってきている問題点。その種類と件数の多さには驚くばかりである。河野デジタル担当大臣は、殆ど全てが入力間違いなどのヒューマンエラーだとしている。しかし、これらの殆どはシステムエラーである。ヒューマンエラーとは人の手による想定外の作業、例えばデータをコピーして持ち出すとか、意図的にプログラムを改変するとかであろう。

 今起こっていることは、各種登録作業をするにあたっての、入力ミスや誤登録のようである。これらはシステムを構築するにあたって、入力ミスや誤登録を防ぐような、入力データをチェックするという仕組みを作らず、何でも通してしまう、杜撰な設計思想に基づいているからだろう。

 岸田政権はこのカードの混乱に焦りを感じ、総点検本部を立ち上げたという。何をするのかと思えば、データ等の総点検をして、7月末ごろまでに結果をまとめて対策を講じる、という。点検方法のマニュアルは作らず、各自治体に任せるという。またしても人力による力技である。しわ寄せは全て地方公務員、或いは健保組合の事務方等の現場にいく。総点検後に問題が出れば、責められるのは現場の地方公務員等である。

 だが、これで問題が解決するとは思えない。総点検も結局は目視確認が主であり、登録時以上の短期の間に膨大な件数をどうやって点検しようというのか。指示する側もその作業量の膨大さに怖れをなし、マニュアルを作らなかったほど。当初から予定されていなかったことを後から継ぎ足していった結果、継ぎ接ぎだらけの巨大システムになってしまったのではないか。

 そもそも、何のためのカードなのか。今や当初は手段であったはずのカードを普及させることが目的になっているのではないか。しかも、本気で全国民に普及させる気なら取得を義務化すればいいものを、未だに取得は任意のまま。何故か。国民にカードに不信感があるからだけではなさそう。利用規約には、利用者が負った損害は、デジタル庁の故意や重過失によるもの以外は責任を負わない、と記されている。

 ポイント付与というような飴と、混交保険証の廃止をはじめとして、母子手帳、運転免許証、ハローワーク申込、大学の出欠管理など、様々な分野で紐付けさせ、カードなしでは生活に支障が出るように鞭をふるってまでも、あくまでもカードの取得は自分で選んだこと、としたいのだろう。だが、ここでの大問題は、任意取得のカードに、国民の権利であり義務である健康保険証や運転免許証、母子手帳などを廃止してカードに一本化することの妥当性である。何の目的で一本化なのか。岸田さんも河野さんも便利だからとか、これからのデジタル社会のパスポートになるとしか言わない。何がどう便利になるのか。何故カード一枚でないといけないのか。そうした数々の疑問には一切答えようとしない。

 カードシステムにどんな問題点があろうとも、もう既に2兆円超の資金もつぎ込んでしまった。一度始めた事業は中断中止はできない。中断中止すれば看板政策としてお種進めてきた政権にとって打撃になる。もしかしたら利権がらみもあるのかもしれない。最早カード導入の目的はおいといて、国民生活への影響もお構いなく、とにかくカード普及を推し進め、当初の予定通り何もかもカードに紐付ける方針は動かさないということなのだろうか。