日本政府は約束を守れるか

 東京電力福島原子力発電所(以下福島原発)にたまる処理水を薄めて海に放出するための設備の工事が完了し、試運転も終わり、原子力規制委員会は6月28日から設備全体の性能を確認する最終段階の検査を始めたという。

 更に、国際原子力機関IAEA)のグロッシ事務局長が来日し、福島原発の視察を予定。岸田首相は処理水の海洋放出に関する評価を盛り込んだ報告書を受け取る見通しで、放出時期を最終判断する際の材料とするという。

 ただ、福島原発の処理水については、政府と東電は福島県漁業協同組合連合会(以下県漁連)に対し、関係者の理解なしには、いかなる処分もしない、と文書で回答している。そして、今も県漁連は明確に処理水の海洋放出には断固反対の態度を示している。

 岸田さんが処理水の海洋放出の最終判断をするにあたっては、その安全性が前提ではあるが、地元県漁連の了解が最重要であることは疑いもない。だが、これまでも政府と東電は地元県漁連の意思とは関係なく、海洋放出に向けてその設備設置工事を進めてきた。  

 この先もこれまでの延長線上で、設備が完成し原子力規制委員会の了解も得られた。収容能力も限界に近い。IAEAの安全であるというお墨付きをもらう。これで安全性も担保されたし、時間的余裕もなくなってきた。ということで原発の処理水の海洋放出に向けての外堀を埋め、あとは、風評被害を払拭すべく政府一丸となって取り組み、風評被害に対してはできる限りの保証をする、と岸田首相の得意技のひとつ、口先だけの実行の先送り、を繰り出して強行突破する構図が見えてきた。

 岸田首相は県漁連と交わした文書の重要性をどれほど理解しているのだろうか。いざとなれば県漁連幹部さえ懐柔すれば先に進める。地元振興策とかで金を積んで事態を打開することも視野に入れるのだろう。

 原発の事故以来、風評被害の怖さを十分に知らされた県漁連にとって、これ以上の被害の上積みは到底許容できないだろう。岸田政権が風評被害の実態についてどれほどの認識を持っているかわからないが、甘く見ていると福島の漁業を潰してしまうことになりかねない。