責任の所在は?

 最近マイナンバーカード(以下マイナカード)での不具合が表沙汰になってきた。コンビニで住民票や戸籍謄本を取ろうとしたら全く知らない他人のものが出てきたとか、健康保険証の代わりにカードを使ったら全く知らない他人の情報が表示されたとか。

 本来任意の筈のマイナカードの取得を健康保険証の廃止という人質を取って、2兆円超という莫大な税金を使って半ば強制取得させようとした岸田政権がこうした事態にどう対処するかと思ったら、河野デジタル担当大臣が、システムを提供する富士通に対しシステムの一時停止と再点検を要請した、という。また、健康保険証については、加藤厚労大臣が、紐付け作業時に誤って異なる人と紐付けてしまったので、今後入力時に十分配慮することを徹底する、と述べるのみ。

 今回の件について大きく二つの問題があると思われる。ひとつは、マイナンバーと健康保険証の紐付け作業は健保組合など担当者が手作業で行っている。マイナンバーは本人の申請がない場合には健保組合などの担当者が住民基本台帳から調べて健康保険証との紐付けが行われているという。健保の担当者がどういう資格で住民基本台帳を見ているのは分からないが、住民基本台帳の閲覧が自由にできるというのは個人情報保護やセキュリティーの面からも問題なのではないか。これもマイナカードによる健康保険証の廃止に伴い出てきた問題で、マイナカードの不具合に目を奪われてこの部分はあまり問題にされていないが、この問題をどうするのか。

 もう一つは今回の最大の問題である。政府が政策として主導しているにもかかわらず、不具合については全く責任を感じていない。しかも、扱っているのが個人情報であるということに全く鈍感であることに今回の問題の根深さを感じる。

 他人の住民票や戸籍謄本が出てきたということは、自分の住民票などが他人の手に渡ることがある、ということなのである。しかも、この事象が起きてもシステムの停止を命令することもできない。あくまでもシステムの提供者側に要請するだけ。その間に何か事故が起こっても政府の責任は無い、システム提供者が対処する問題だ、と宣言しているようなものだ。

 保険証とマイナンバーの紐付けが今の状態なら、現在表れているような問題点は今後も起こるだろう。マイナカードと運転免許証の紐付けも義務化しようとしているし、預金口座との紐付けも目論んでいるのだろう。その一方で今回の件は、何か問題が起こっても政府には責任はなく、政府としては責任は取らない、ということを明確に表明したものといえよう。重要な個人情報を集めるための急ごしらえの仕組みで、安全性の検証も十分にしないまま、一枚のカードに紐付けようとする危険極まりない試みと言えるのではないか。