岸田首相の人権感覚は

 自民党内の人事ではあるが驚いた。杉田水脈衆院議員が環境部会長代理に就いたという。自民党内の環境部会のナンバー2である。杉田さんは、いわゆる保守層の思考回路での言動を臆面もなく内外に発信してきた。当然のことながら国会内だけでなく一般社会でも大いなる顰蹙を買ってきた。

 昨年末には、一連の差別的言動で総務政務官を更迭されていた。先日、アイヌ民族らへの差別投稿をめぐって、札幌法務局から人権侵犯を認定されたばかり。しかも、人権侵害認定に対して何の説明もせず、コメントしていない。つまり無視である。裁判所から人権侵害を認定されるような人物は国会議員として不適格だと思うが。

 あろうことか、そのような人物を党の要職につけるとは。党総裁である岸田首相の人権感覚もその程度のものだという事だろう。岸田さんは、国連演説で人間の尊厳が尊重される国際社会を、と訴えている。その一方で、自民党総裁選で公約に掲げた国際人権問題担当の首相補佐官が空席となっている。岸田さんの肝いりポストだったという。

 このアンバランスさ。一貫性の無さ。自身の保身の為なら、その場限りの自分に都合の良い話をしてでも支持を取り付け、できれば拡大したい、ということだろう。そこには何の信念も理念もなく、あるのは如何に総理総裁を長く続けるか、その一念だろう。

 首相になりたい理由はと問われ、日本で一番権限が大きい権力者だからで、何をしたいかは話さなかった。権限は欲しいが、何かをしたいわけではない。そこに岸田さんの本質があるのだろう。

 その一方で、自民党前女性局長だった松川るい参院議員が副幹事長に就任した。自民党女性局によるフランス旅行が、研修という名の観光旅行ではないかと批判され、辞任していた。そこをまた副幹事長に登用するとは。松川さんは観光ではなく研修だったと言っているが、未だに研修報告書も出ていない。

 辞任の理由としても、自分のSNSの投稿内容が悪かった所為で、真面目な研修だったのに誤解を招いてしまって申し訳なかった、というもので、説明にもなっていない。誤解されたから辞めますと。自分たちは悪くないのに、という事なのだろう。国会議員としての自覚というか、やって良い事と悪い事の区別ができていないようだ。誤解だというなら、そうでないことを事実をもって反論すべきだろう。

 今回の件は、たまたま見つかるようなことをしてしまった、運が悪かったというのが自民党内の一般的見方なのだろう。岸田さんにとっても、何の抵抗もなく素通りできる事柄なのだろう。ただ、杉田さん、松川さん共に安倍派所属であるという事が、岸田さんにとって来秋の総裁選に向けて、党の要職に再登場させた大きな理由なのだろ。