岸田首相、対策の中身はどうするの

 福島原発の処理水放出が始まった。「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」という約束を文書でかわしながら、その約束が反故にされたようだ。

 「漁業者との信頼関係は少しずつ深まっていると認識をしている」と述べ、勝手に、海洋放出への理解が進んでいると漁業者との直接話し合いもせず、スケジュールありきで、8月末までの海洋放出実施に向けて第一歩を踏み出した。だが、現状で、当事者である福島県漁連は依然として放出に反対していることに変わりはない。

 これまでに岸田首相は、地元漁業者と直接対話をすることもなく、国民に対しては実態の説明もせず、相変わらずの「丁寧な説明が必要」の言葉のみ。ただひたすらIAEAの報告書にある「処理水放出が国際的な安全基準に合致している」との言葉を使用するのみ。これは日本の原子力規制委員会がよく使う、規制基準に適合している、と同じである。だが、規制委員会は、基準には適合しているが、安全だとは言っていない、と明言する。つまり、安全に対しての判断は政府にある、と言っているのである。その点ではIAEAの報告も同レベルであると言えよう。

 原発処理水が危険だというつもりはない。安全をアピールするなら、通常の原発の排水に含まれず、処理水に含まれるトリチュウム以外の放射性物質の値も同時に公表し、基準値より低く、長期間摂取しても安全であること説明すべきだろう。現地の意向も聞かず、碌な説明もせず安全を訴えても、安心を得られるとは思えない。岸田さんは岸田流ではなく、本来の意味での「丁寧な説明」というものをしてみてはどうだろうか。

 岸田さんが処理水放出に当たって、全漁連会長と面会。「今後数十年にわたろうとも、漁業者が安心してなりわいを継続できるように必要な対策を取り続けることを全責任を持って約束する」と表明。風評被害など放出の影響軽減に向け「水産予算とは別に政府全体として責任を持って対応する」と明言した。

 しかし、数年前に文書で交わした約束が守れない岸田さんが、将来の約束をしても、何の意味があるのだろう。それを言うならまず今ある約束を果たしてからだろう。岸田さんの言う全責任とは何を意味しているのか。また、風評被害などの影響軽減に水産予算とは別に対応するという。何をもって影響を量るのか。相変わらず本気で考えているとも思えない約束をいくら述べても、納得し難いだろう。

 政府の対応についても、具体的にどうしようとしているのか。鮮魚を含む海産物価格の下落。流通量の減少やそれに伴う漁獲高の減少、対象の地域の範囲や福島県以外はどうするか。現に中国が日本からの海産物の輸入を全面禁止とした。政府が従来価格で買い取るから、売り先の無い海産物でも取り続けろというのだろうか。北海道から沖縄県までの全漁協を補償対象にするのか。

 観念的抽象論だけの岸田さんらしい、その場限りの中身の無い言葉には何の意味もない。概略は示した、後は官僚に丸投げ。自分の役割はここまで、と考えているなら心得違いも甚だしい。しかも、相変わらず政府は風評被害などの対策費など制作費用は計上するが、賠償費用は東電の負担というスタンスだ。これまでの原発被害の賠償でも東電の対応は誠意に欠けると批判されてきた。ここではどうするのだろうか。処理水の排出は東電自身が決めたことで、責任が転嫁できる余地は無い。

 岸田さんはこの状況をどう考えているのだろうか。